福祉・介護職員等処遇改善加算は、人材確保と職場環境の整備に直結する重要な制度です。本記事では、制度の概要と取得に必要な要件をわかりやすく解説します。
福祉・介護職員等処遇改善加算は、福祉・介護分野で働く職員の賃金向上や職場環境の改善を目的とした加算制度です。人材確保と定着を図るため、報酬に上乗せして支給される仕組みで、令和6年度の報酬改定により、従来の3つの加算(処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算)が一本化されました。
福祉・介護職員の処遇改善は、平成23年度まで実施された「福祉・介護人材の処遇改善事業」の効果を継続させる目的で、平成24年度の障がい福祉サービス等報酬改定にて「福祉・介護職員処遇改善加算」が創設され、その後の改定を経て加算率や内容の充実が図られてきました。さらに、令和元年10月には「福祉・介護職員等特定処遇改善加算」、令和4年10月には「福祉・介護職員等ベースアップ等支援加算」が新設され、処遇改善の多層的な支援が展開されてきました。
令和6年度の報酬改定では、これらの加算を一本化し、「福祉・介護職員等処遇改善加算」(以下「処遇改善加算」)が新たに創設され、加算率の引き上げに加え、配分方法の見直しも行われています。
目的は次の3点にあります:
加算を算定する障害福祉サービス事業者等は、加算相当額を賃金改善(基本給、手当、賞与等の引上げ)に充当しなければなりません。法定福利費等の事業主負担増加分も含めることが可能で、改善対象項目は明確に特定する必要があります。
令和7年度に限り、以下の経過措置が認められています。
処遇改善加算の単位数は、基本サービス費に(処遇改善加算を除く)各種加算・減算を加えた月額総単位数に、加算区分ごとの加算率を乗じて算定します。
※地域相談支援・計画相談支援・障害児相談支援は対象外です。
(厚生労働省通知より引用)
福祉・介護職員等処遇改善加算は、要件の充足度に応じて加算Ⅰ~Ⅳの4区分に分かれています。それぞれの区分は、職員の処遇改善に向けた取り組みの内容や水準に応じて設定されており、加算率も異なります。
処遇改善加算Ⅳ(あるいは見込額)の2分の1以上を、基本給や毎月定額で支払う手当の改善に充当することが必要です。ただし、すでに加算を算定している事業所は、給与総額を新たに増やす必要はなく、他の手当や一時金からの振替で対応可能です。
この要件を新たに満たす場合は、基本給等の引上げはベースアップ方式(賃金表を一律で改訂)によることが原則です。
旧処遇改善加算のみを算定していた事業所が、新たに処遇改善加算Ⅰ~Ⅳを算定する場合、令和7年度から旧ベースアップ等加算相当額の2/3以上の基本給引上げが必要です(※ベースアップを基本とする)。
令和6年5月以前に旧3加算を算定していなかった事業所や、令和6年6月以降に開設された事業所は対象外です。対象事業所は令和7年度の実績報告書にて改善内容を報告する必要があります。
次の3点すべてを満たす必要があります:
※従業員が10人未満の事業所は、内規での代替が可能。
※令和7年度に整備を誓約すれば要件を満たすものと扱われるが、令和8年3月末までに実施・報告が必要です。
研修体制に関する次の2点を満たすことが必要です:
※令和7年度については、令和8年3月末までに計画を策定・実施する旨を処遇改善計画書に誓約すれば、当初から要件を満たすものとして取り扱われます(実績報告書で報告が必要)。
次の2点を満たすことが必要です:
以下の1~3いずれかに該当すれば可:
※常時雇用10人未満の事業所等では、内規等による整備・周知でも可
経過措置:
令和7年度に要件を誓約すれば、当該年度から満たしたものとして取り扱われ、令和8年3月末までに整備・実績報告が必要です。
以下の条件を満たす必要があります:
経験・技能のある障害福祉職員のうち少なくとも1名以上が、処遇改善後に年額440万円以上の賃金水準となっていること(※もとから該当水準にある者は対象外)
例外的な対応が認められるケース(合理的な説明が必要):
対象となるサービスで「福祉専門職員配置等加算」を届け出ていることが必要です。
(※居宅介護・重度訪問介護・同行援護・行動援護の場合は「特定事業所加算」が該当します)
ただし、以下のサービスには福祉専門職員配置配置等加算が設けられていないため、この要件は不要です:
処遇改善加算Ⅰ〜Ⅳのいずれかを算定する場合は、職場環境の改善に関する取組を実施することが求められます。
(厚生労働省通知より引用)
次の5区分それぞれで2つ以上の取組を行うこと
加えて、「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組」のうち3項目以上(うち項目⑱は必須)を実施すること
公表義務(加算Ⅰ・Ⅱの場合)
上記5区分ごとに1つ以上の取組を行うこと
「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組」のうち2項目以上を実施すること
※小規模事業者(1法人1事業所)の場合は、項目㉔のみの実施で生産性向上要件を満たすことが可能
令和7年度中は、計画書で「令和8年3月末までに実施」と誓約すれば当該年度から満たしたものとして取り扱われ、令和8年3月末までに当該取組の実施・実績報告が必要です。
福祉・介護職員等処遇改善加算は、職員の賃金引上げや職場環境の整備を目的に創設された重要な制度です。令和6年度の報酬改定では、従来の3つの加算が統合され、申請手続きの簡素化や配分方法の見直しが行われました。本加算は、事業者にとって取得すべき制度である一方、キャリアパス要件や賃金改善の具体的な方法など、多くの条件を満たす必要があり、その内容は複雑です。
本記事では、制度の概要から要件の詳細、経過措置に至るまで、できるだけわかりやすく整理しました。処遇改善加算の算定や申請を検討される際の参考になれば幸いです。